Main content

はたらく人の創造性を高めるには?

=コンソーシアム発足で環境整備を共同研究=

2023年01月31日

働き方改革

主任研究員
田中 美絵

 コロナ禍で大きく変わった私たちの働き方。自宅や出先などでのリモートによる勤務が一気に進み、感染拡大と収束の波を繰り返す中、多くの企業が出社勤務との最適な組み合わせを模索しているのではないか。

 新たな働き方が広がる中で、大きな議論の1つとなっているのが、従業員の創造性をいかに高めるかである。従業員同士がリアルに顔を合わせる機会が少なくなったことで、影響が出ているのではないかと指摘されているのだ。

 こうした問題意識の下、2023年1月13日に発足したのが「はたらく人の創造性コンソーシアム」だ。

 新規事業開発から日々の仕事の創意工夫まで「人々がより高い創造性を発揮できる働く環境の実現」を目指して、研究や実証実験を行う。新型コロナによる働き方の変化を踏まえ、はたらく人が創造性を発揮し、働きがいと経済成長が両立する持続可能な社会を目指す共創の場という位置付けだ。

 コンソーシアムを構成するのは、共同発起のイトーキ、NTT都市開発、oVice、ザイマックス不動産総合研究所、JTB、パソナ、VISITS Technologies、リコーと一般会員の日本マイクロソフトの計9法人だ。各社が得意とする領域の知見を活かして創造性を高めるにはどうすれば良いのか議論していく。

写真第1回会合
(出所)はたらく人の創造性コンソーシアム

 筆者はコンソーシアムの事務局として立ち上げの活動に従事してきた。その中で筆者なりに感じたのは、「はたらく人の創造性」を論じるには、3つの視点・論点があるのではないかという点だ。

 1つ目は、働き方とコミュニケーションの変化。2つ目は、日本人の創造性に対する意識の低さ。3つ目が人工知能(AI)の活用だ。

 本稿ではこの3点に基づき、創造性を高めるための課題について洗い出し、どうすれば解決に結び付くのかなどについて論じる。なお、これはあくまでも筆者の個人的な見解であり、今後コンソーシアムで展開される議論と関係ないことはあらかじめお断りしておく。

1.働き方・コミュニケーションの変化

 新型コロナウイルスの影響によって、目に見える形で大きく変わったのがリモートワークの普及だろう。ワーケーションなど新しい働き方も増加した。これによって対面で会うことの意味が問い直され、着想に当てるための時間が増えた人も多いのではないか。

 その一方で、従業員同士が対面で会う機会は大幅に減っている。米ジョージ・ワシントン大学と米不動産大手のCushman & Wakefield Researchの推計によると、従業員2人がそれぞれ週に2日ずつリモートワークをすると、2人ともオフィスにいる可能性は29%まで減少するという。マイクロソフトの社員6万人を対象とした調査では、2020年以降、他部門との交流が減少したという結果が示されている。

 これが創造性にどう影響を及ぼすのか。従来、創造性を発揮するには、対面でのアイデア出しや偶然の出会いによる会話など"集まる"ことの重要性が説かれていた。例えば、米シリコンバレーが発展した背景には就業後にエンジニアが自由に交流し、情報やアイデアが活発に行き交い融合したことがあるといわれる。

 米アップル創業者のスティーブ・ジョブズが、1986年に買収したピクサー・アニメーション・スタジオのトイレを1カ所だけにして社員間の交流を促した、という逸話もある。オフィスにはコーヒースタンドなど偶然の出会いを演出する仕掛けも取り入れられた。

 筆者も数年前までは、大きな模造紙やカラフルな付箋、カラーペンを使ってみんなで顔をそろえてアイデア出しをしていたものだ。オフィスには広い保管場所があり、議論の途中でもそのままにしておけた。

写真変わるアイデア出しの風景(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

 それがコロナ禍で一変。オフィスのレイアウト変更とロッカーの削減もあってオンライン上での会議に移行し、コラボレーションツールを活用することが増えた。

 メリットは会議室を予約する手間がなくなり、簡単に会議を開催ができるようになった点だ。一方で、発言のタイミングの難しさや、全員のアイデアを引き出せていないのではないかといった不安などを感じることもある。

 こうした課題の多くは、メタバースのような仮想空間が発展すれば、リアルとの違和感もさほどなくなるかもしれない。

 ただ当面は、リモートとリアルを組み合わせたハイブリッドワークが定着すると考えるのが自然であろう。であれば、リアルを他の従業員とコラボする創造性発揮の場として活用し、リモートは個々人の仕事に集中するといった運用をするなど、用途や時間に応じて柔軟に使い分ける必要があるかもしれない。

 さらに「偶然の出会い」についても、リモート上で雑談の時間を設けたり、たまたま会議で同席していた人と気軽に会話できるような機能の充実を求めたりするなど、まだ工夫や改善できる余地は大きそうだ。

2.創造性を重視しない姿勢

 創造性を高める議論をする上で、押さえておかねばならないのが、創造性に対する日本人の意識の低さだ。

 マーケティング調査などを行うアルファ社会科学の本川裕主席研究員によると、創造性と挑戦をどの程度重視するかという質問に対し、日本人は対象60カ国の中で共に最も低い回答割合だった。

 ここから読み取れるのは、新たなことには取り組まずに従来通りの行動を続けた方がいいという安定志向である。

創造性と挑戦を重視する程度の調査結果
20230202_01.png(出所)アルファ社会科学本川裕氏提供資料を基にリコー経済社会研究所

 また、経済産業省が2020年に実施した調査では、「職場で創造性を発揮できているか」という問いに対し、「とてもそう思う」「そう思う」という回答は、33.9%にとどまった。

創造性を発揮できていると感じている割合

図表(注)大企業で働く223人を対象とした調査
(出所)経済産業省「令和2年度 産業経済研究委託事業(創造的組織の開発及び創造性人材のキャリア形成に関する調査研究)
報告書(IDEOLP)」を基にリコー経済社会研究所

 学術研究の分野では、創造性を発揮するためのさまざまな取り組みについて示唆がある。例えば、刺激になる情報の収集や知識の幅を広げるための学習、多様性が高いチーム編成、心理的安全性の高いチーム作り、フラットな議論の進め方、デザイン思考をベースとした試行錯誤などだ。

 しかし、こうした手法も自分にとって創造性が重要であると認識した上で、選ばなければ、効果も感じられない。結果的に創造性発揮に結びつかないだろう。企業としても創造性が重要であるという抽象的なメッセージにとどまらず、評価の中に明確に組み込むなど一歩踏み込んだ取り組みが求められるのではないだろうか。

3.AI活用による創造性の進化

 AI活用については昨今、創造性を発揮するための支援機能が飛躍的に進化している点が注目される。

 例えば、言語でイメージを伝えると連想するアートやイラストを作ることができるレベルまで達している。

 そのうちの1つ、独ミュンヘン大学のCompVisグループが開発したStable Diffusionでは、「creativity in the workplace(職場における創造性)」と入力するだけで、何パターンかの画像を生成することができる。絵心が無くても、言葉で表現することでイメージにあったイラストや動画を生み出せるようになれば、アイデアを伝える手段が増えるだろう。

 言語の分野でもAIの進化は目覚ましい。米オープンAIが2022年11月に公開したチャットアプリケーション「ChatGPT」は、ユーザーの入力に反応して人間のように会話することができると反響が大きい。

 このような技術を活用して、人の創造性をインタラクティブに支援するAIの利用が検討され始めている。

 例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に、漫画や小説のストーリー型コンテンツの創作を支援するシステムの研究プロジェクトが進められている。作りたいコンテンツの種類とキャラクターを設定することで、粗筋やストーリーをある程度自動生成する仕組みだ。近い将来、漫画や小説だけでなく、事業展開のシナリオまで創作支援するシステムが登場するかもしれない。

 ここまでくると、AIがブレインストーミングなどでアイデア出しまで担うような時代もそう遠くないかもしれない。

 自然言語処理が専門の名古屋大学の武田浩一教授によると、「AI、ディープラーニングの創造性に違和感を持つ点は、そもそも出力の生成がブラックボックスであり、出力に関する創造意図や伝達したメッセージ性、何のためにその出力を創造したのか、といった説明が全くないことだ」という。

 AIは過去の作品を対象に「ゆらぎ」を与えて新たなものを作るため、価値があるとか自由な発想がある、といった意味付けが無い。一方で、AIを使うと単なる複製ではない出力を短時間に多数生成できる、という特徴がある。

 ブレインストーミングでは、アイデアをなるべく多く出すことが重視される。その工程をAIが担うことができたら、人は価値を見極めることにより注力するようになるかもしれない。つまり、AIをうまく活用することができれば、創造性の発揮において人が担う役割が変わってくる可能性がある。

創造性が高いとは?

 ところで創造性とはそもそも何か。さまざまな定義や特徴が挙げられる中で、ハーバード大学のテレサ・アマビール教授は、ある「ドメイン(領域)」における新規かつ有用な「アイデア」の創出と定義する。

創造性の高さのイメージ図
図表(出所)一橋大学 永山晋准教授

 これに沿って考えると、創造性の議論の難しさは、ドメインが人によって異なる中で、価値が評価されるという点だろう。ドメインによって測り方が異なるため、アイデア(アウトプット)の創造性が高いかどうかを一概に測定するのは困難を極めるからだ。

 その意味では、最終的に生み出される製品やサービスの評価から逆算するしかないのが現状だ。それでも、筆者ははたらく人がまず「創造性を発揮している」と感じられることが第一歩なのではないかと考える。

 先述の経産省の調査では、創造性を発揮していると感じられない要因として「創造性は一部の人にしか必要とされていない」「天才的な個の才能によって生まれるもの」といった「思い込み」があると指摘する。

 こうした先入観を排除すると同時に、オンラインツールやAIの活用といった環境が整えば、多くのアイデアが生まれるようになるかもしれない。

 今回集まったコンソーシアム参画メンバーは、多種多様なバックグラウンドと技術を持っている。今後、研究や実証実験を通して、1人でも多くのはたらく人が「創造性を発揮している」と感じられるような活き活きとした社会形成に向け、成果が上げられることを期待している。


コンソーシアム発起企業のコメント

株式会社イトーキ DX推進本部 デジタルソリューション企画統括部 デジタル技術推進部 
部長 秋山 恵
 働き方改革、コロナ禍を経て、働く環境は限りなく拡張しています。働く環境=オフィス、という常識はもはや存在せず、あらゆる瞬間を働く環境として活用していくことが、私たちの「働く」をより良くしていきます。「はたらく人の創造性コンソーシアム」に参加し、TECH&DESIGNで実現する、創造的に、健康的に、いつでもどこでも協働できる、働く環境で創造性を発揮していきます。

NTT都市開発株式会社
取締役 デジタルイノベーション推進部長 上野 晋一郎
 NTT都市開発では、ひと中心の街をデジタルがさりげなく支える未来の実現に向けて、さまざまな取り組みを行っております。「働く」という時間は人生の中で大きなウェイトを占めています。チームの創造性を高めると同時に、1人ひとりのWell-beingを実現する「未来の『働く』」を具現化していきたいと考えております。本コンソーシアムでは「はたらく人の創造性を高める道筋。それを支えるデジタル」を探求し、その実現に向けて皆さまともにチャレンジしていきます。

oVice株式会社
代表取締役CEO ジョン・セーヒョン
 二次元のメタバース「oVice(オヴィス)」は、現実世界のようなコミュニケーションができることから多くの企業の働く場所として活用されています。数年で大きく変化した働き方には今後も様々な変革が起こり、どこにいてもパフォーマンスを発揮し創造性高く働ける「ハイブリッドワーク」環境が整備されていくと考えています。本コンソーシアムにおいても、スタートアップ企業らしい柔軟性と多様性によって働き方の仕組みを提案し、日本のイノベーションを後押ししていきたいと考えています。

株式会社ザイマックス不動産総合研究所
代表取締役社長 中山 善夫
 ザイマックス不動産総合研究所は、30 年以上に及ぶ不動産の運営・管理等の実務を担うザイマックスグループならではの切り口で、不動産マーケットや需給等に関する多彩なデータ蓄積と独自の調査・研究を行い、情報を発信しています。近年、働き方や働く場が多様化し、ハイブリッドワークを前提に企業が成長するためには、企業だけでなく、はたらく人個人にも変革が求められています。本コンソーシアムへの参画により、弊社ならではの貢献と新たな発見が見出せることを期待しています。

株式会社JTB ビジネスソリューション事業本部 第四事業部
事業部長 金井 大三
 JTBは、昨年度、創業110周年にして初めて、旅行"外"事業が旅行事業を上回る売上決算となりました。旅行事業のみならず、旅行者や企業、地域、学校などを「つなぐ」ことで、さまざまなお客様のご満足や課題解決に「つなげて」いく共創視点を軸に、新たなビジネス創出を手掛けています。本コンソーシアムを通じて、はたらく人の創造性を高める社会へ挑戦してまいります。

株式会社パソナ 営業統括本部
リンクワークスタイル推進統括/ゼネラルエキスパート 湯田 健一郎
 パソナグループは「社会の問題点を解決する」という企業理念のもと、ダイバーシティを推進し、誰もが自由に好きな仕事を選択でき、働く機会を得られることを目指して、さまざまな社会インフラを構築してきました。はたらく人の創造性を高めるアプローチは、働くことの意義と社会の潮流を捉えなおし、新技術の活用も交えて社会のあり方を再考することにも繋がると考えます。「人を活かす」という観点からコンソーシアムの皆様とぜひ活発な意見交換をしていきたく思います。

VISITS Technologies株式会社
代表取締役 松本 勝
 VISITSは「創造性を科学し、世界中の誰もが社会価値創造に貢献できるエコシステムを構築する」というミッションのもと、未来を変える革新的なアイデアを抽出できるAI搭載型共創ツール「VISITS forms」とDXに必要な人材を発掘・育成する「DXクラウド(デザイン思考テスト)」を開発・展開しています。創造性をテクノロジーの力で可視化することを通じ、1人ひとりが創造性に意識的になり、共創とイノベーションが加速する社会というテーマに向き合ってきました。本コンソーシアムでは多様な会員の皆様との共創を通じ、テクノロジーの視点から「はたらく人の創造性」の普及に努めてまいります。

株式会社リコー リコー経済社会研究所
所長 早﨑 保浩
 リコーは創業100年を迎える2036年に向けて、「"はたらく"に歓びを」というビジョンを掲げています。業務の効率化や生産性向上を超え、はたらく人が人ならではの創造力を発揮することで、充足感や達成感、自己実現の実感につながる、"はたらく"の変革をお届けすることが使命であると考えます。本コンソーシアムへの参画も、その実現に向けた取り組みの1つとなるものです。

写真Moving Forward(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

田中 美絵

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

※この記事は、2023年2月27日発行のHeadLineに掲載予定です。

戻る